「白と黒のパン」

いわなみ家の話

第25話

「白と黒のパン」

 

先日、子どもたちが図書館で借りてきたアニメDVD「アルプスの少女ハイジ(1979年作品)」を見ていて、思わず2度見してしまったシーンがありました。

両親を亡くした少女ハイジは、アルプスの山小屋に住むアルムおじいさんのところに身を寄せることになりました。

その、夕飯のシーン。

アルムおじいさんが戸棚を開けると、

まず一番上に服が掛かっていて、

その下に木製のコップや皿、

そして一番下にパンとチーズが入っていました!

衣食住、暮らしに必要なものが全て戸棚に入っているのです。

 

一日中雨が降り続く高温多湿な梅雨のニッポンでは、今日も、エアコンをドライモードに設定し、パンは冷凍庫で保管しながら生活しています。

 

話は戻って山小屋の夕げ。

アルムおじいさんは、チーズとパンの塊からそれぞれ2枚を切り取ります。

チーズは鉄の棒に刺し、暖炉の火であぶって、トロンと溶けてきたところを、ハイジが待つパンの上に載せてやるのです。

その無駄のない所作といったら・・!

美しく、美味しそう!

パンはもちろん、「黒パン」です。

みっちり目がつまっていて、ボソボソしているんでしょうが、とろけたチーズをのせてやればもう何も要らない。

実際、劇中では自給自足の貧しい暮らしの設定ですから、テーブルの上に他にあるのはヤギのミルクだけでした。

 

パン教室でも白い粉と茶色い粉の違いについてよく話しました。

小麦の粒は、イメージは玄米とおなじで、外皮は茶色で中心部にかけて白くなっています。

外皮(ブラン)にはビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富ですが、パンにすると舌触りの悪いボソボソなものができてしまいます。もっとも、ハイジの食べていたパンは、痩せた土地でも育つライ麦のパンかもしれません【黒パン、田舎、アルプス】。

内側の胚乳は白く、糖質やたんぱく質が多く含まれますので、キメの細かいふわふわのパンやケーキに使われます。外皮を選り分けて製粉する必要があり、小麦粉になるまでに手間がかかります【白パン、都会、フランクフルト】。

 

予備知識はここまでにして、また話に戻りましょう。

アルプスの山の暮らしに慣れたある日、親戚のおばさんがやってきてハイジをフランクフルトに連れ戻そうとします。

最初はアルプスを離れないと言い張っていたハイジですが、都会には美味しいものがいっぱいだと聞かされて、

「おばさん、フランクフルトには柔らかい白パンあるの?」

「ええ、いくらでもあるわ!」

話に乗ってしまいます。

心優しいハイジは、山の暮らしで知り合ったおばあさんの言葉を思い出していました。

「黒パンは私には固くてねぇ。たまには柔らかい白パンが食べたいわ」。

そして、その日のうちに買って帰り、おばあさんに届けようと思いついたのです。

 

無情にもフランクフルト行きの電車が動き、夕日で染まったアルプスの山々が遠ざかるのを、親のわたしだけが涙で画面をにじませて見ているのでした・・。

格差社会のなかで、本当の幸せとは何かを問う。白と黒のパンだけでここまで表現しているなんて、これはただの幼児向けアニメではありませんでした。

その日の夕方、湯船に浸かって、「白パンと黒パンの違いわかる?フランクフルトって東京みたいなとこなのよ、だからね・・」と説明しても、ポカンとしてる幼子たちよ(笑)

次女に至っては「あの、ソーセージのついたやつ?」とのたまわっておりました。

 

母ちゃんはスイスとドイツへ、パンとチーズの旅に行きたくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昼寝(ただいま業務中)」

いわなみ家の話

第24話

「昼寝(ただいま業務中)」

 

 

「っーてことは、今日も寝てないってことですよね?」

ひとしきり続いたお客様の列がなくなったころ、毎回ひょっこりたずねてくるのが、裏の家のケイコちゃんです。

歳は私より6つほど下で、お互い婆ちゃんになったら、漬け物でも出して縁側でお茶飲みするであろう仲です。

【本日完売しました】の看板を出し、パン陳列用のザルを片付け、ケイコちゃん差し入れのジュースを飲んで脱力タイム。

お尻に根っこが生えた店主はなかなか立ち上がれません。

「そろそろ退散しますから寝てくださいよー」と、店主を促すケイコちゃん。

 

この日も深夜1時のオールナイトニッポンを聞きながら朝までパンを焼き、そのまま午前10時30分の開店時間を迎え、完売まで走り切りました。

 

ケイコちゃんのみならず、我が娘たちも、

「ママは、今昼寝中!」

の意味を、正しく理解してくれています。

 

 

「寝かせて。昼寝もおしごとのうちなの!」

と娘らが2歳の頃から言い聞かせています。

最近になってやっと、馬乗りになって叩き起こされることがなくなりました。

私が新聞社にいたころ、仮眠室という薄暗い部屋があって、歯医者のリクライニングシートみたいなのがずらりと並んでいました。

ちょっと横になれば、その後の仕事効率が良くなるのに、仮眠室の扉を開けるのはどうも後ろめたくて。サボってると思われるんじゃないかと。

仕事に家事に子育てに、疲れたら、大手を振って「ちょっくら寝てくる!」。

そんなふうに言い切れる雰囲気にならないかなあ、我が家だけじゃなく、世の中全体が。

と思っていたら、先日の福島民友新聞(別刷り「TOUCH」)に、台湾在住の青木由香さんが台湾人の「元気の秘訣」をレポートしていました。

それによると、「台湾の小中学校には昼寝の時間があって昼食後に机に突っ伏して昼寝をする」のだそう。さらにはこの習慣が社会に出ても続いていて、「昼休みには昼寝のために電気を消す会社も多い」。

なんてうらやましい!

強制的に昼寝タイムが設けられたら、罪悪感なんて背負わなくても目を閉じられたのに・・。

 

昼寝のほんの2、30分。この威力はすごいもんがあります。

誰に遠慮することもありません。

もし、「いつも寝てるよね」って言われたら?

「いつも働いてるから!」って胸を張って答えましょ。

 

 

 

 

 

「彼とベイカーズ・ハイ」

いわなみ家の話

第23話

「彼とベイカーズ・ハイ」

 

ランナーズ・ハイ、クライマーズ・ハイ。

長距離ランナーや登山家が、極限の体力や恐怖心に達したところで、それらを忘れてしまうくらいのハイ(酩酊)状態になり、何をしても辛くなくやり遂げることができることだそうです。

朝のジョギングも続かず、目前の磐梯山は眺めるだけの私が、そんなハイ状態になることがある?!んです。

 

いわなみ家パン屋の始業は午前1時。

「菅田将暉のオールナイトニッポン、この番組は東京千代田区のニッポン放送をキーステーションに全国ネットでお送りします。今夜も、このあと深夜3時までお付き合いください」

チャラッチャ、チャッチャララ チャッチャラ~♪

お馴染みのあの曲で、パン焼きのスイッチが入ります。

【1時10分】ベーグル58個分、カンパーニュ4玉、ショコラオランジュ20個分の生地を冷蔵庫から取り出し、発酵器に移して温める。重さにすると全部で15キロほど。

【1時15分】前日夜、仮眠前に焼いておいた山食が完全に冷えているのを確認し、ハーフサイズに切って袋詰め。

今日もリスナーの容赦ない菅田さんへのツッコミに腹を抱えます。

リ「おい!菅田!」

菅「は、はいっ(恐縮)」

実際には菅田さんが1人2役でメールを読み上げているんですが、こんなリスナーとパーソナリティーのやりとり聞いたことありませんよね。

人を傷つけない低姿勢さも彼の魅力だと思います。

 

【1時30分】発酵器の生地に手を当てて、ほどよい弾力を感じたら、一気にベーグルを分割。

ラジオのトークに笑う暇はあっても手を休める猶予はなし。発酵は待ってくれません。

ここは、「無」の境地で片づけます。

カンパーニュの生地も、すき間時間で分割して丸めておきます。

 

【1時50分】ラジオがCMに入ったタイミングでトイレへ走る。

手を洗ったら、ついでに冷蔵庫からチーズとマロングラッセと残りの生地をピックアップしてパン工房に戻る。

「この忙しいのに手ぶらで帰ってくんなよ~」

が、パン屋修行時代の先輩の口ぐせでした。

持ち場を動くなら、帰りに何か材料取ってこいってことです。まだ身に付いてますよー、先輩!

【1時55分】この前頂いた、とっておきのチョコとコーヒーの休憩にしたいところだけど、ショコラオランジュの生地を20個に分割。

続いてさっきのベーグル生地に具材を入れて棒状にしていきます。56本ノック。

【2時30分】チョコとコー、、が目の前にあるのに、56本終える頃には1本目がいい感じに緩んで、リング状に成型するタイミングとなりました。

これとほぼ同時に、ショコラオランジュとカンパーニュが「あたしらも成型してよー」と訴えてきます。

この辺りが、わたしのベーカーズ・ハイ、酩酊開始となります。

大量の生地に急かされれば急かされるほど、楽しくなってやれる気がしてくる。ハイになっちゃいます。

【2時58分】「そろそろお別れのお時間です。ここまでのお相手は菅田将暉でした。ほな!」

♪チャラ~ン♪

 

午前3時を過ぎて彼が帰ってしまっても大丈夫、寂しくないのです。なぜならベーカーズ・ハイだから(笑)

このあと子供たちが起きてくるまでの3時間、大小120個のパンを焼きながらハイ状態は続きます。

オーブンは2台しかないので、発酵が一気にやってこないようにコントロールする必要があります。

それがパン焼き人冥利に尽きる作業で、難しくも楽しい。

ベイカーズ・ハイに導かれるには・・

  1. 自分の今の能力より、ちょっとだけ上のタスクを課す
  2. 音楽や彼など、伴走者をつける(自分の目と手は自由に動かせる状態)。YouTube動画とかはダメよダメダメ。目が奪われ、手が止まります

では!今夜も彼とハイになって参ります~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イランコトイワン子育て

いわなみ家の話

第22話

「イランコトイワン子育て」

 

ブログの更新が途絶えていたここ数日、母ちゃん参ってました。

何よりも食べることが好きで、家族の誰よりも先に食卓について、「もうやめなさい」って言うまで食べ続けていた1年生の次女が、全く食べなくなりました。

食卓に並んだ夕飯をチラリと確認して、顔をしかめて後ずさりするのです。

「かえちゃん吐きそうなの」。

初日は泣き叫び、翌日は目の焦点が定まらず、その次の日からは目の下にクマができてしまいました。トレードマークのぽっこりお腹もあっという間に引っ込んでしまいました。

入学、コロナ禍、運動会・・積もり積もった、いろんな疲れやストレスが彼女にのしかかったのでしょうか。原因はわかりません。

せめて水分だけでも摂ってほしい・・。

我が家では、食事中にジュースは飲みませんが、こうなったら何でもオーケー。りんごジュース、カルピス、ファンタ。

「え?ごはん中だけど、いいの?」。

3年生の長女はキョトンとしながら、棚ぼたに預かれてラッキー。(飲んでほしいのはキミじゃないんだけどー、笑)。

当の本人には作戦失敗。次女は今にも泣き出しそうな顔をして、また食卓から離れていきます。

しだいに私は、食事の準備と次女の反応が怖くなってきました。

またダメだったらどうしよう。

「無理して食べなくてもいいよ」と言ったそばから、「ひとくちでもいいから、食べて」。

母の愛が強すぎるゆえに、言動が矛盾しました。

 

行き止まりのどん詰まりにいたとき、私の他にも、かえちゃん応援団がいました。

「外でサンドイッチを作って食べよう」と、材料を買い込んで来てくれた夫。

我が家の食料ストックにはないジュースやフルーツの缶詰を自宅からかき集めて持ってきてくれた裏の家のけいこちゃん。

畑のイチゴを摘んで夕飯前に届けてくれた近所の子供たち。

「おにぎりに巻いたら食欲でるから!」と、レッスンの帰りに青ジソの塩漬けを持たせてくれたピアノの先生。

大好物の明太子ならどうかと、すぐに送ってくれた福岡の母。

 

応援団による、あの手この手の縦横無尽作戦。

いつもは食料ストックがほとんどないウチの冷蔵庫がパンパンになりました。

 

そして別の形の応援も。

以下は友人とのLINEのやりとり。

友「もしかして、食事中、固唾をのんでかえちゃんのそばで見守ってる?」

私「カタズのみまくりですけど?!」

友「(笑)やっぱり」

私「手に汗にぎったママが隣にいたら確かにプレッシャーよね。ちなみに、黙っていようと思っても、すぐ、『ちょっとだけでも食べて!』とか言っちゃう・・」

友「ほんとうにお腹が空いたら自分から食べるはずだから、今は辛いけど、そっとして、待とう」

私「そやね。イランコト言わずにね~」

 

母親って、すぐイランコト言っちゃう性なんでしょうか。私だけか??黙って見守るのが苦手!

「ひとくちだけ」も「ちょっとだけ」もイランコト。今は食べたい時じゃないんだもの。

辛抱しなきゃいけないのは、母親の私のほうでした。お口チャック。

そして5日目の夕方、湯船に浸かっていたとき、

「ママー、何でもいいからたべたい!おなかすいた!」

 

はいよ待ってましたー!

応援団の皆さま、ご心配おかけしました。もう大丈夫です。昨夜は、明太子ごはん3杯目のおかわりしようとしてましたので。

 

「いいかげん宿題やんなさい」

「はやく歯磨きしてー!」

「時間割まだなのー?」

 

イランコト言わん母になるつもりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焼きたての冷めたて」

いわなみ家の話

第21話

「焼きたての冷めたて」

 

パンがいちばん美味しい瞬間はいつだと思いますか?

わたしの思うに、それは2回訪れます!

1回目は「焼きたての冷めたて」

焼きたてから数時間たった、冷めたてのころです。

ちょうどいわなみ家店頭販売開始の10時30分でしょうか(笑)ほんとだよ。

意外にもホカホカアツアツフーフーのときって、パンの本当の味はわからないんです。アツアツに感動しがちですが。

 

2回目は「翌日以降に焼き直したとき(リベイク)」。

どんな有名パン職人が作ったパンでも、パンを乾燥させてしまったら、もうおしまいです。不味いラスクみたいになります。

パンは焼きあがって窯から出したその時から乾燥が始まります。

パン屋さんで、陳列棚にハダカの状態で盛られているパンを見ると、ハラハラしてしまいます。

乾燥しちゃうよ~。若さは戻らないよ~。包んであげたい~!青春を返せ~。

ただし、パンの中心部に熱がこもっている場合は、まだ包みません。

カンパーニュなどの大型パンは完全に熱が抜けるのに3時間以上かかるので、ハダカの状態で並んでいてもOK。安心してください。

さて、仮に私が、東京まで出掛けて、お目当てのパンデフィロゾフのパンをたくさん買ってきたとします(コロナおさまれー。行きたい~)。

  • (焼きたてなので袋の口をあけておきますね~)と言われたパンは、完全に冷めたら口を閉める
  • 帰宅したら、翌日までに食べる分を選んで、残りは二重ラップして冷凍庫へ
  • 翌日分は冷蔵庫ではなく室温で保存

 

お待ちかねの翌朝、リベイクの方法は以下の通りです。

  • パンの表面に100均の霧吹きスプレーで水をシュッ、シュッ、シュッ。3回くらい
  • オーブントースターで3~4分

これで、外側はカリッと、中はしっとり。パンがよみがえります。

冷凍のパンは前日の夜にでも室温に出しておけばよいでしょう。

 

この方法、スーパーのトンカツや天ぷらにも応用できます。衣にシュッ、シュッ、シュッで、焼きあがりカリッ、ふわ。

昨日、美容室でトリートメントしてもらい、スタイリストさんにいいことを聞きました。

「朝のブロー(ドライヤー)は、寝てる間に髪の水分が減って乾燥してるので、髪の毛を水で濡らしてから(ドライヤーを)やると、髪の毛ツヤツヤをキープできますよ」って。なるほどねー。

100均の霧吹きスプレー、トースター横と、洗面所に常備ですね~。