「いわなみ診療所」

いわなみ家の話

第152話

いわなみ診療所

「いわなみさーん、いるかよぉ?」

「あら、おばあちゃん、どうしたー?」

「これ、これー。はってくれぇー」

はってくれー、って何を??と思って玄関に駆けていくと、なんとばあちゃん、土間まで上がり込んで背中とお尻をむき出しにしているではないの。

親の介護もまだしたことがない、ウブな47歳、正直びびりました。

痛くてしかたがない、(同居の)息子には頼みづらい、いわなみさんしか居ねぇだぁ

と懇願されちゃあ仕方がない。

(あと20分でパン屋開店なんだけど・・めっちゃ忙しい時間ーー!)ぐっとこらえて、のびのびサロンシップを尾てい骨に2枚貼ってあげました。

ばあちゃんの好物はショコラオランジュで、これまでに20個以上はご購入いただきました。パン屋じゃない日もかまわずご来店(笑)するのですが、「あのチョコレートの丸っけぇやつ。おれ大好きだから2個取っておいてな」と言って、取りに来たためしは無い。忘れちゃうんだなぁ。

「また頼むねぇ、いわなみさーん」と言い残して、湿布の入った袋をひらひらさせて帰っていったけど、「また?!」。いわなみさん、またびびりました。また?!

そして5日後、ばあちゃん再来。

いわなみ診療所と化した我が家の土間の、パイプ椅子に座ってもらい、湿布の交換をしました。もうビビらない。我ながら慣れるもんだ。

ちなみに、「いわなみさんしか居ねぇだぁ」と言っていたばあちゃんだけど、たまにママ友のK子ちゃんちにも来ているらしい(笑)女の人に頼みやすいんだねぇ。

今日はとうとう、「わたなべさんだったよな?」と道端で呼び止められ、私は 渡辺さんになりきって湿布を貼ってあげました。

ここでひとつ、ばあちゃんに謝りたいことがあります。

ときどき、いわなみさんは居留守を使います。パン屋の昼寝中はカンベンしておくれ~。

「いわなみさん、いるかよぉ?」

私「いねぇーよぉー」

ばあちゃん、「いねぇのかぃ⋯」とつぶやいて帰っていったというのは、噓みたいなホントの話。

 

 

 

 

 

 

「家出(45分)」

いわなみ家の話

第151話

「家出(45分)」

中学生の娘と言い合いの末、「親をバカにしないでくれる?もう知らない!部活だけ好きにやってなさい」

と言い放って、家出をした。ワタシが。

タダじゃ家出しないのが個人事業主、兼主婦。

生乾きの部屋干し洗濯物を、怒りに任せてバチン、バチンと洗濯バサミからすべて殴り外し、配送分のパンを抱えて。

ここで財布やケータイなんぞ忘れて取りに戻るほどカッコ悪いことはないので、何度も持ち物確認をしてクルマに飛び乗る(ややカッコ良く)。

コインランドリー待ちの間に、買い物メモをみながら卵と牛乳と焼きそば麺を買う、この虚しさよ。

「かえ(妹)がAmazonPrime観たいって。いい?」

「さっきはごめんなさい」

こんなLINEは当然未読スルー。(妹をダシに使うな。そもそも、送信する文章の順序が逆!)

世の母はどうして、こんなに怒り心頭のときでさえ、フカフカのパジャマやタオル、部活のジャージを角をそろえてたたんでいるのでしょうか。

春休み初日。これじゃ先が思いやられる。

セブンイレブンで「レアチーズタルト」とコーヒーを買って自分を入念にトリートメント。しっかし、イライラしているせいなのか、残してきた子が気になるのか、コーヒーの味はほとんど分からず、ゴクゴクと流し込む。

同級生の娘を持つママ友にこの状況を愚痴ると、彼女も家出系コンビニコーヒー母だった(笑)しかも常連。そのうちこの駐車場で鉢合わせだね。

花粉をため込んだ裏山に日が落ちて、空もフロントガラスもまっ黄色。そろそろ帰るか。正味45分。

心のモヤモヤは晴れるはずもない。

どうやってこの冷戦状態を打開すればいいのか、わからないなぁ。The思春期

 

 

「サブスクの見直し」

いわなみ家の話

第150話

「サブスクの見直し」

先日の日曜日、玄関先に「本日のパン屋は14時からです!」と貼り紙をして、朝食の皿もそのままに、急いで車に飛び乗った。

「筆、墨、持った?」

「持ったよ。レッツゴー!」

毎年恒例、書道教室主催の「席書大会」なるものに出場するため、鶴ヶ城の文化センターに向かった。

セキショタイカイというのは、「大人数で、ひとつのお題を、決められた時間内に書いて、その日のうちに受賞作品を選評する書道大会」らしい。幼稚園生から高校生まで200名超が集まった。

「席書!」の合図で筆を墨に浸す、我が家の次女カエチャンの顔は引きつりまくっている。保護者も観覧できる(写真も撮ってよい、カシャッ)のだが、わたしは早々にその場を離れた。見てられないよ〜。

20分の席書のあと、会場から出てきた彼女は

「名前のところがダメだったー、あーーん」と言って上気した顔をしていた。

一方、「んじゃ、行ってきまーす!」とヨユーの声の主は長女。これまでに何度も表彰され、うちの土間にはトロフィーや賞状がズラリ並びきれないほど。

中高生の部は後半の席書だ。

行書なんてどーやって書くんだ⋯うまいなぁ。娘らと同じタイミングで6年前から私も書道教室に通っているが、とうに追い越されている。

「どれも上手くいった(Vサイン)。結果たのしみ」。そうかい。後半の20分は待っているこちらも短く感じられた。

軽く腹ごしらえをしたのち、表彰式会場へ。

5年生の部。下の方の賞から順に名前が呼ばれ、次々に子どもたちは壇上へ。カエチャン?まだ呼ばれないじゃん!もしかして?

大賞ではないものの、本人もびっくりの受賞となり、軽い足取りでトロフィーを抱えて戻ってきた。嬉しそう。

続いて中高生の発表。

と、ここで早々に長女の名前が呼ばれてしまい、3人とも顔を見合わせて「そんなはずじゃなかった⋯」。初めての無冠。

妹を喜んであげたい一方、姉には何と声をかけよう?

「よーがんばった。お母さんならあの緊張には勝てないわ。すごいよ。お母さんはさー、別にあんたたちに書道家になってほしいわけじゃないよ〜。このドキドキとかヤッターとかクッソーとかを味わうのいいでしょー。まだ書道続けたい?そっか、なら、月謝払うよ(笑)」

サブスク、定額制のサービスのこと。Amazonプライムや新聞購読、さらには美容液やコンタクトレンズも私の現在継続中サブスクだ。

そして習い事もサブスクのひとつだと思う。なんと計算をしたら、書道教室のサブスクにこれまで100は支払っていることになる。

サブスクは力なり。彼女たちのやる気を見たので、書道教室は続けよう。

先月始めた、目元専用美容液。効果あるんかな?これやめようかな〜。いや、継続してこそ?サブスクの見直しは悩ましい

 

「パンでご飯を食べる」

いわなみ家の話

第149話

「パンでご飯を食べる」

先日の日曜日、入店してきたお客さんが土間をぐるりと見渡したあと

「パンだけで、生活されているんですか?お仕事のほう…」と。

「ええ、はい(笑)パンだけでご飯食べさせてもらってます」。

店主の面目にかけてちょっと補足説明を。

日曜と火曜がパン屋で、木曜と火曜がお届けパン(発送)またはパン教室の一週間で生計を立てています。

シンジラレナイ・・の表情が隠せないお客さん、なおも不思議そうに古民家の玄関や土間をチラ見。

「お家は、別のところに?」

「あー、ウチは、店舗兼住宅です。ここは玄関。家族も使います」

玄関先にのれんを掲げ、簡易的な机を出してそこにパンを並べ、お客さんからお代をいただいてます。

店舗兼住宅はこだわっていた訳ではありませんが、結果的には、私にとって、働きやすいベストの形だったようです。

例えば街中にテナントを借りてパン屋を始めていたら、続かなかっただろうと思います。賃貸料を払えない・子供の面倒を見られない・睡眠時間が減る、の三重苦に陥っていたことは想像にたやすいです。

(パジャマでも仕事できるのが、店舗兼住宅の最大の魅力)

続いて、パンを買ってもなかなか帰ろうとしない別のお客さん。ご主人と2歳くらいの娘さんは外で待っているようですが?

「ひとりで、パン屋をしていらっしゃるー、ですよね。お話しをききたくて、福島市から来ましたんです。終わるまで、待ってます」

どうも、お悩み相談のようです(^^)

接客の合間を縫って、少しずつ話を聞きだしていくと、

「出身はモンゴルで、餃子の店を出したいんです。餃子、皮から」

はいはいはい、いいじゃないですか「餃子でご飯を食べる」(これ、シンプルに最高の夕飯、笑)

若いころ、出張先のウランバートルで食べた、ホウトウのような太麺が入ったスープがとてもおいしかったことを思い出しました。たしか羊肉の出汁でした。そう、小麦のおいしさをガツンと味わえるのが、手作りの水餃子ですよね。

私のアドバイスはこうでした「いきなり店というより、お家で餃子レッスンをしてみたらどうですか?皮から作るなんて、興味ある人いっぱいいますよ。それに、皮を伸ばすときの麺棒の使い方とか、手さばきを間近で見られるんでしょう?お教室、やってみたら?」

彼女の餃子が食べたくなりました。

パンひとつ、餃子ひとつで、ご飯を食べていくことは簡単でありませんが、まずは一人のファン(の胃袋)をつかむことからだと思います。がんばって!

 

 

 

 

 

「腹が鳴るパン教室」

いわなみ家の話

第148話

「腹が鳴るパン教室」

パン屋開業を目指す人向けのパン教室2025、時刻は正午過ぎ。

グゥゥゥ~~

今日もどなたか、正直な生徒さんのお腹が鳴っています。

「お腹空きましたよね~、でもね、二次発酵がいい感じなんですよ。このまま焼成に入りたいので、ちょっとこれでしのいでください!」

講師はカンパーニュ1切れにバター、ジャム、粒マスタードをサッと塗り、コーヒーと共に生徒さんに手渡します。本日のランチ。以上!

一方、10年前にさかのぼり、いわなみ家パン教室2015のランチ。

アールグレイのスコーン、ラムレーズンのスコーン、キュウリとツナの全粒粉パンサンドイッチ、ニンジンオレンジラぺ、ゴボウのポタージュ、豆乳プリン梅ジャムのせ、コーヒーまたはカフェオレ。鶏ハムやリエットを手作りしていた時もありました。

「3人の子をワンオペ育児していたあのころ、月イチのパン教室が私のご褒美、癒しの場でした」と、今でも元生徒さんには懐かしんでもらっております。

が…あの頃には戻らないでしょう。もう、リエットの作り方忘れました、汗

 

元生徒さんで、現在は、予約の取れない自宅パン教室を主宰しているM子さん。彼女が7年前、「いわなみ家レシピで開業したいんです」と勇気をもって話してくれたとき、わたしは二つ返事でOKを出しました。彼女のことを「パン作りや人づきあいに、とってもセンスがある人だなあ」と前々から思っていましたので。

そんなM子さんのパン教室に参加した、開業志望のEさんが、M子パン教室一回目の受講で「あなたはウチのパン教室に来るべきじゃないね」と言われたそうなんです。M子の洞察力、さすがだと思いました。

Eさんはパン店勤務の合間を縫って、M子パン教室や聡子パン教室に通ってくれています。

パン教室には2パターンあって、

①レッスンで集中したあとは、焼きあがったパンを囲んで和やかにランチやお茶を囲む会

②パン作りの腕を上げるためにひたすら生地を触り、腹が鳴ってもおかまいなしの会

M子さんちは、①ですね。10年前のいわなみ家パン教室も①でした。

M子さんはさらに「あなたはここに来る代わりに、聡子さんのところへ行って仕込みとか焼成を見学させてもらうほうがいいでしょう?」とEさんに伝えたそうです。M子、1回目の受講でここまで見えるとは!

パン作りの腕を上げるために、②よりもいいところ、実は知っています。

パン屋のバイトです。お金をいただきながら技術を身に着けられるし、いわなみ家パン教室は正直安くはないので・・考えてみる価値はあります。あ!でも、午前6時出勤がフツーです。

パン店勤務のEさん、いつも5時半前に家を出るそうです。私も若いころ、5時15分には有楽町線に乗って半目でパン屋に出勤していました。

M子や聡子は、パン教室のタイプは違いますが、パンに脳みそを占拠された方へ的確にアドバイスできるよう、今日も酵母を育てながらあなたをお待ちしています(いわなみ家パン教室2026開講は春の予定です)