「1枚のホットカーペット」

いわなみ家の話

第95話

「1枚のホットカーペット」

 

コロナ家庭内療養3日目。

1枚のホットカーペットに集まる家族団らんの図。

「1ペア」「ストレート!」

解熱し、暇をもて余した子どもたちとパパが、マスクをして向かい合い、ポーカーをしている。(「隔離生活あきらめました」執筆中 )

コロナは、かすがい。

夫婦の会話なんてロクになかった我々夫婦も、この状況では互いに助け合わなければならなかった。

病院の予約や受診、学校への届け出、スーパーへ買い出し…。それぞれ抱え込んだ仕事をキャンセルしながら、今は目の前の緊急事態に対応していく。

見事なバトン方式で子ども達が発熱していく中、

元気なほうが元気なうちに、手が空いたほうが動き、(会話も増え)、理想的な夫婦の形に近づいていた。

 

「2ペア」「フルハウス!」

明るい親子3人の声が布団のなかに入ってくる。

こんな団らん、いつぶりだろう…。

私はというと、午後から微熱が出て、ホットカーペットの隅っこで寝込んでいた。

 

「ポーカー、もいっかい!」

「そろそろ7時だ。ご飯にしよっか」

「そだね。ママ~ご飯にしよ!」

 

「はぁ?ご飯つくってないけど?ママ寝てるの見えなかった?」

 

ポーカーのメンバーに激震が走る。

長女はそそくさと箸を並べ、パパは無言で塩鮭を焼きに台所へ向かう。

いわなみ家他メンバーに告ぐ。

ママはサイボーグでもご飯係でもない!

(母は半日で平熱に…。ちぇっ。しばらく熱あるってことにしとこう)

 

 

 

 

 

 

 

「パンの顔見知り」

いわなみ家の話

第94話

「パンの顔見知り」

ヤマト運輸から小包が届いた。

送り主の欄には、先週お届けパンを送ったはずの愛知県のお客さんの名前。

まさか…

パンがご不満で、送り返された…?

前回送った時には「できることなら毎月お取り寄せしたい」と最上級の感想をいただいていたのに、落胆させてしまったのか。

恐る恐る箱を開けてみると、やっぱり中身はパン。

ベーグル4種、ドライフルーツとナッツのハードパン、黒ごまのパン。アールグレイのメロンパン。あれ?

これはいわなみ家のラインナップにないパンたち。

それにしても、見れば見るほど私のパンに似ている(一瞬ほんとに焦った)。

同封されていたメモには、「突然送り付けてごめんなさい!聡子さんに食べてもらいたいと思って。迷惑だったらすみません」。

詳しく伺うと、近所にある天然酵母パン屋さんがいわなみ家のパンにとても似ていてよく通っているそうだ。

送り付けたくなるのもよく分かる。似ているんだもの。

似ているのは、使っている材料やパンの形ではなく、パンの質感のようなもの。

実は以前から、インスタグラムで見つけて、ひとりパン屋の悩みを共有しあっていたのが、この「soytobio(ソイトビオ)」さんだった。

難関のお取り寄せ合戦に挑む意欲はなかったけど、いちど食べてみたいと思っていた!

 

さっそく翌日の朝食に娘たちといただいてみた。

家族にいわなみ家以外のパンを食べさせるのは毎度緊張する。

パン屋店主兼母のプライド、今回はいかに。

丁寧にリベイクして、一番いい状態でパクリ。

「お、おいひい~。口の中が楽しいよぉ」と一番に反応したのは、何を隠そうアタシでした。いやいや、旨い!好み!わたしも通いたい!

(いわなみ家のお客さん減る?)

母「怒らないから、答えてよ。どっちがおいしかった?」

長女「怒らない?えーっとね、ママのノアレザン…に似てる、このドライフルーツのやつ」

コントみたいなご名答!

よい刺激を受け、今日も今日とてパン生地仕込み。

顔も名前も知らない、パンの顔見知りsoytobioさんに、食後すぐハガキを書きました。ごちそうさま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【11月8日(火)完売しました(10:54)】

【11月8日(火)完売ありがとう(10:54)】

途中から大雨に遭いましたが、お客さん耐えてくれました。ご協力ありがとう。帰宅してあったかくしてください。

  1. 山食
  2. アーモンドトースト
  3. アーモンドトースト(チョコチップ)
  4. ノアレザン
  5. ナッツとチーズのハードパン
  6. パン・ド・カンパーニュ
  7. 塩あんこベーグル
  8. ブルーベリーベーグル
  9. チョコクランベリーベーグル
  10. オリーブとチーズのパン
  11. マロングラッセのバトン
  12. ナッツとチーズのバトン
  13. 抹茶ホワイトチョコクランベリーのバトン
  14. ショコラオランジュ
  15. マロングラッセのくるみパンサンド
  16. やっこいあんバターサンドmini
  17. シリアルフルーツバー
  18. いわなみ家のグラノーラ

「第3駐車場のじいちゃん」

いわなみ家の話

第93話

「第3駐車場のじいちゃん」

 

第3駐車場のじいちゃんが亡くなった。

「空いてっから使え」

と、自宅前の広いスペースを、いわなみ家お客様第3駐車場として貸してくれた「金子のじいちゃん」。

じいちゃんはその昔、宮大工だったそうで、自宅も作ったそうだ。自宅裏の畑には、じいちゃんお手製の鳥の巣箱も。

私たちがじいちゃんちの道路向かいに引っ越し、自分達でリフォームしながら住み始めた頃、よく顔を見せてくれたものだった。

夫がDIYする電動のこぎりの音が聞こえると、ひょっこり現れ、大工の血がさわぐのだろうか、アドバイスをしてくれているようだった。

(実はじいちゃんが言っていることの半分も聞き取れていなかったのだけど、「うん、そうだね」と、いつも調子を合わせておいた)

金「おめら、とーちょーからかぃ?」

夫「とーちょー?」

金「んだからよぉ、とーちょーかよ?」

とーちょー、が東京だと分かったのは、半年ほど後のこと。

 

今日は金子のじいちゃんち、慌ただしく旅立ちの準備をしてるようだった。

「知らない子供がけっこういっぱい来てるよ」と、庭に出ていた長女が教えてくれた。

ここに住んでもうじき4年になるが、確かに初めて見かける親戚の子たちだ。

「もっと早く来てればじいちゃんに会えたのに…」と含蓄のある言葉をつぶやく長女。

事情はわからないし、なにかと家族は忙しい。けれど、会えるうちに会っておこうと思った三日月の夜。

夕方、お別れしてきました。

きれいで穏やかなお顔でした。

じいちゃんゆっくり休んでね。

 

 

 

 

「セイへの関心」

いわなみ家の話

第92話

「セイへの関心」

雨の三連休。

子供たちが暇を持て余しはじめた様子なので、午前中のパン仕込みを中断し、近所の同級生Мちゃん(小4)も誘って図書館へ行ってきました。

それぞれ持参した本を返却カウンターに提出すると、三人三様バラバラになって本を探しに行きます。この後ろ姿を見送るのが結構好きです。

どんな本を選んだのか、帰り際に得意そうにバックの中身を見せてくれるのも楽しみ。

 

「よーちゃんママー、これ見つからない」

Mちゃん、検索機の前で困っていました。

どれどれ。

タイトルは「死後の整理…」

子供たちが読みたい本、探したい本には、口を挟まないようにしているけども…Mちゃんどうした。

「オッケ。じゃ、この番号をメモして、向こうの棚を探そう」

メモを片手に周辺のタイトルを見回してみると、「生前贈与」「遺言書の書き方」「遺品の片付け方」。どうも毛色が違うようです。

「マンガだと思ったけど、ないならいいや~」

「そう、いいの?じゃ、帰ろっか。で、みんな何を借りたのー?みせてみせて」

「生理の本!」

4年生女子、声をそろえて答えます。

いいねいいね、知りたいよね。成長してるなあ。

もしかして「セイリ」検索でヒットしたのが「整理」だったんじゃ…。

興味の先が、死後の世界かと思ったよ~、ホッ。まだ早いよ~と思ったものの…。

 

帰宅後のMちゃんとママとの会話。

 

Mちゃん「難しいとこのコーナーに行っちゃった」

ママ「どんな本のとこ?」

Mちゃん「【身近な人が亡くなったら】の本のとこ」

ママ「そっか。あった?読みたい本」

Mちゃん「セイリの本、なかったけど、パパとママ死んだらイヤだと思ってボーッとしちゃった」

図書館は知の扉。

生も死も性も、知るに早すぎることはないんだな。