「通勤3分」

いわなみ家の話

第119話

「通勤3分」

わたしは自宅兼店舗の個人事業主なので、通勤時間はゼロ。

ところが最近、月に2度ほど「通勤3分」を楽しんでいます。

新しい仕事場のパン教室会場は、町役場内の調理室。

家を出発して最初の田んぼを左折、次の田んぼを右折したら、前方に雪化粧した磐梯山を眺め、霧の中を絶景3分ドライブ。

会社員時代は、激混みで有名な東急東横線の都立大駅から渋谷でメトロに乗り換え、40分もかけて大手町まで通勤していました。駅員に押し込まれて、電車の中で見えるのは人様の後頭部だけ。どうにも気持ちが悪くなって途中下車したことも何度かありました。苦痛でしかないあの40分はもう二度と経験したくない…。

今日も今日とてパン教室。3分の通勤時間で気分爽快にしたところで、8名の生徒さんを迎えてレッスンをスタートです。

まずは講師の自己紹介から。

「ここから車で3分のところでパン屋をやっていますイワナミです」。自分でもこの「3分」が気に入っているので、自己紹介のキーワードにしています。

パン教室ではベーグルを各自4つ焼き、さらに生地をこねて自宅に持ち帰ってもらうことにしています。焼きたてのベーグルを頬張り、レッスンも終盤です。生徒さん、私、アシスタントのマリコさん、みな和気あいあいの仲になってきました。

「はいはーい、それじゃあ最後にお持ち帰り用の生地をこねます。集合してくださーい!」。

1人分の生地を、手ごねを実演してみせたあとは、「機械ごねのやり方もお見せしますね。一気に6人分の生地をこねられます。」。

自宅から抱えてきた大型パンこね機を前に、自信満々のイワナミ先生。「こね機の羽がグルングルンとまわって生地ができるわけです」。と、この直後、青ざめます。

「アレがない…」

すり鉢状のパンこね機の中央にあるべき「羽」がない…。羽がなくて何がこねられる?!

時計は13時20分過ぎ。

「やってしまいました…。羽、家に忘れてきました!13時半には戻ります。マリコさん、あとよろしくお願いしますっ」

田んぼをぶっ飛ばして片道3分、食洗機の中に転がっていた羽をつかみ取り、戻る田んぼ道3分。往復6分で絶景なんて視界に入りませんでした。

ゼーゼー肩で息しながら無事?調理室に戻ることができました。温かく迎えてくれた生徒さんとマリコさん、こんなセンセーをこれからもよろしく(大反省)。

忘れ物しがちなワタシには通勤3分しか考えられません