「いわなみ家山食2022レシピ 」

いわなみ家の話

第86話

「いわなみ家山食2022レシピ」

いわなみ家パン教室生徒のみなさん、お久しぶりです。

大阪で1年、福島市で5年、会津で1年。自宅に最大4名ずつ生徒さんを招いて、パン教室をやっていました(現在はやっていません)。

夏は暑くて首に保冷剤を巻き巻き、みんなで230度のオーブンの前に張り付いてレッスンしていましたね。なつかしいな!

生徒さんも、そうでない方も、今日はウチに来たつもりで、以下のレシピを読んでいただけると嬉しいです。

ではレッスン始めます。

 

いわなみ家山食2022

<材料>(山食1個分)

  • パートフェルメンテ 80g
  • 強力粉 280g
  • スキムミルク 15g
  • 砂糖 16g
  • 塩 5g
  • 水 188g
  • 無塩バター 15g

生徒「はいはーい!せんせー。ぱーとふぇるめんて?って何ですかー?」

い「はい!いい質問きましたー」

パート(生地)フェルメンテ(発酵した)は、いままでみなさんが使ってきた「自家製天然酵母元種」と同じ形状のものです。

 

パートフェルメンテの作り方(前日の夜作っておく)

<材料>(作りやすい分量。余ります)

  • 強力粉 150g
  • ヨーグルトエキス 120g
  • インスタントドライイースト 0.5g以下(二つまみくらい)
  • 自家製天然酵母元種 10g

保存容器に材料をすべて入れ、菜箸などでぐるぐる粉っぽさが見えなくなるまで混ぜたら、25度くらいの環境(夏なら室温でOK)に3~40分おいて、ちょっとだけ発酵させる。容器の底をみて、ぷつぷつした気泡が数個できていればよい。かさが増えるまで発酵させない。その後、冷蔵庫で一晩(8時間程度)低温発酵させてできあがり。

上記の材料の合計は280gとなり、山食3個ぶん以上あります。半量で作ってもOKですが、その場合、量が少ないのですぐ発酵してしまいます。25度に置くのは30分以内にとどめてください。

このパートフェルメンテは毎回新しく作ります。余ったパートフェルメンテは、次のパートフェルメンテに足さないでください。その日のうちに違うパンに使うか、元種のほうに足すようにしましょう。

新入り生徒「あのー、せんせー。もうついていけません。ヨーグルトエキスってスーパーで売ってるんですか?それに、たった10gの自家製天然酵母元種も、ないんですけどー」

はい、それは素直にごめんなさい。いわなみ家のレッスンを受けた方しかわかりませんよね。

簡単に言うと

ヨーグルトエキス

フルーツを水に浸して酵母を起こした液+市販のプレーンヨーグルト+少量の砂糖=ヨーグルトエキス

自家製天然酵母元種

ヨーグルトエキス1に対して1.3倍量の小麦粉を混ぜ、発酵させ、2回以上かけ継いだもの

 

詳しくは岩波聡子著「いわなみ家のコツ」…と本を紹介できればいいのですが、

それは数年内の夢なので、本屋さんなどで自家製天然酵母関連の本をめくってみてください。似たような記述があります。

説明が長くなりました。早速作っていきましょう

作り方

  1. 水にパートフェルメンテをちぎり入れてよくなじませ、「小麦粉、砂糖、スキムミルク」のボウルに流し入れる
  2. 粉っぽさがなくなるまで生地をひとまとめにしたら、ボウルにシャワーキャップをかけ、20分ほど休ませる
  3. (手ごねの方は)台に出して10分ほどこねる  (パンこね機なら)5分まわす
  4. また5分ほど休ませたあと、塩を入れてこねこね(3分)
  5. やわらかくしたバターを入れながらこねこね(5分)
  6. 生地の表面がつるんとしたら生地のできあがり

発酵、パンチ、成型

発酵は自家製天然酵母オンリーのものより1~2時間ほど早めです(夏なら6時間程度で1次発酵完了)。生地ができあがってから3時間ほどたったころ、生地は緩んでダラーンとするので、両端を内側にたたむように三つ折りのパンチをします。成形は2つ山でも3つ山でもOK

 

できる限り詳しく書いたつもりです。

個別の質問は、手が回らなくなることがあります。

特にパートフェルメンテのことでご質問があれば、インスタグラムのメッセージ欄にお願いします。質問の共有は誰にとっても役立つのでね!

 

「イーストは負けか?」

いわなみ家の話

第85話

「イーストは負けか?」

自家製天然酵母の沼にはまってしまったパン作り好きな人なら、お分かりいただけるでしょうか。

「イーストVS自家製天然酵母」

イースト菌(学名サッカロミセスセルビジエ。これを一気に言えるとパンに詳しいんです~と胸を張れるが、今回もググってしまった。言えましたか?)は、パン酵母の一種で、自家製天然酵母に比べると膨らむパワーが10対3くらい(私の感覚による)。

強いならイーストを使えばいい、という話ではないのよこれが。

自家製天然酵母マスターのプライドにかけて、イーストには頼りたくないという変な意地。その意地がかれこれ10年も私の中に根を張っていた。

「自家製天然酵母のパン教室」

「自家製天然酵母パン屋」

ここで、イーストを使えばドーピング?

 

話は変わって、先日、友人にオーガニックのコーヒー豆をもらった。

豆をひきながらいつもこう思う。

「この豆は私にもらわれて幸せだろうか」

オーガニックで育てられ、フェアトレードで日本にやってきて、特別な方法で焙煎され、最後の最後、ドリップするときにお湯ジャーーーでは浮かばれない。

ちゃんとおいしく淹れてあげなくちゃ。

 

山食が膨らまなくなって2か月。

小麦価格高騰のこのご時世にどれだけの小麦粉を無駄にしたのか。

山食の着地点「外側の皮は薄くつややかで香ばしく、中はしっとり絹のよう」にしてあげられなかった。

方法や作り手が違えば、おいしいパンになったはずの小麦粉。

 

打つ手がなくなって、全く違うレシピで山食を焼いてみた。

いつもの天然酵母をイーストに置き換えて(これじゃ、いわなみ家山食じゃないんだけどね)。

焼きあがった山食は、生地の量を間違えたかと思うくらいにマッシュルームのように膨らみ、食感はミスドのフレンチクルーラー、そう、まるで空気!

ここまで軽いと着地点とかけ離れるけど、小麦粉は明らかに今までより幸せそうだ。

実は着地点が上がって(変わって)きたように思う。

それなら、今までと同じやり方で焼いても到達するわけがない。

最初に考えるべきは「どんなパンを焼き上げたいか」なのに、方法や手段(自家製天然酵母オンリー)にこだわりすぎていた。

イーストと和解だ。仲良く、いいとこどりしよう。

ステファン・レナ シェフ曰く「自家製天然酵母種は、日本のみりんや酒、いわゆる調味料のようなもの」。

軽いのが取り柄のイーストと、味に深みを持たせる自家製天然酵母種のハイブリッド。これが私の出した newいわなみ家山食の答えです。

 

次回のいわなみ家の話で、レシピを公開します。

パン教室は止めましたが、まだみんなの先生でいさせてくださいねー

 

 

 

 

 

 

 

「背中をどこまで見せるか問題」

いわなみ家の話

第84話

「背中をどこまで見せるか問題」

田舎に移住し、自営業者となってパン屋を開業する、

アタシの背中を子供たちに見せていけたら…の思いで暮らしてきました。

時間をかけて1個のベーグルを作る代わりに、300円のお金をいただくのも、見て感じてほしい。

そんな気持ちで、レジで接客するのを長女(小4)に任せていたところ、

なんだか最近、ナ・マ・イ・キ。

「このごろ山食失敗してるんですよー、アハハ」

「(完売後に来店し残念がっているお客さんに)10時半オープンなんでぇ、この時間に来てもパンないですよ、アハハ」

「子供たちにふるさとを作ってあげたくて移住してきました(それ、子供が言うな!)」

お客さんとの会話をさえぎって、生意気娘がコピーフレーズを連発。

引きつった笑顔でその場をしのいでいたものの、完売閉店後、カミナリ落としました。

「お母さんさ、遊びでパン屋やってるんじゃないんだけど。真剣なのわからない?あなたがパン焼いてるわけ?あなたが寝てるときに焼いてるんだけど!悲しいんですけど!!これ以上調子に乗るなら手伝ってもらわなくて結構!」

「ごめんなさぁい」

まくし立てて、結果が良かったことはありません。理解してるんだか…。

睡眠不足でイラついてしまった感も否めないので、昼食後、仮眠をとって午後の予定に備えました。

午後は会津青年会議所主催「会津で夢を見よう 会津の魅力再発見」と題したトークセッション。せんえつながら移住者としてパネラーになりました。

その日の夜書いた、次女(小2)の作文より

きょうわたしは、お母さんの会ぎについて行きました。会づわかまつの 会づけいこ堂(会津稽古堂)の3かいでやりました。50人くらいの大人の人に、お母さんはいじゅうの話をしました。もちろんパン屋の話もしました。そのあいだわたしはお姉ちゃんとうしろの方で本を読んだり3かいのたんけんをしたりしました。

ほほう、妹が退屈しないように館内の探検に連れ出してくれたのね。トイレにも付いていってあげてたね。やるじゃん。

帰るときに、会づの牛にゅうとヨーグルトとはちみつをもらいました。うれしかったです。

姉「かえちゃん、作文おわったー?早く食べようよー。紅しょうがいるー?七味はいらんやろ?」

妹「待ってよー、あと1行書かなきゃ。何書こう?」

つかれたので、よるごはんはよしぎゅうにしました。

吉牛。最後の1行に、働く母の背中が最も表現されておりました(笑)

 

 

 

 

 

 

 

「夢の事情聴取」

いわなみ家の話

第83話

ファイトソングを聴いて不意に涙が出た。

こんなにまじめにやっているのになぜ結果が出ない?

あまねく挫折に光あれ。願わなきゃ傷つかなかった。望まなきゃ失望もしなかった(菅田将暉「ロングホープ・フィリア」)

菅田さん、いつ光が見えるんでしょうか。

何をやっていても胸がつかえて苦しい。

歌や文章に涙もろくなる。

これは…

なかなか結実しない恋をしているときに、世の中にあふれる恋だの愛だのを語る歌に共感し涙する感覚と一緒。

山食失敗談にここまでお付き合いしていただく予定ではなかったのですが…。

ああトンネルが長い。光が見えない。

もう何が原因か見当もつかず、悔しさやなぜ?を通り越して「念」や「意地」でパン生地を膨らまそうとしている自分。

昨日なんて午後5時に二次発酵を始めた生地が膨らまず、意地になって発酵機の前に張りついていたら午前2時。二次発酵に9時間なんてアリエナイ。案の定、オーブンの中で生地は萎んでいきました。

「一番の夢は現状維持。現状維持ってすごく難しいんですよ。夢を追いかけるのは簡単なんやけどもね」(明石家さんまさんインタビュー記事。5月21日付け読売新聞)

「ベストスコアを維持するっていうのも難しくておもしろいんだよ」と先輩が言っていた(若林正恭著「ナナメの夕暮れ」より)

いつもの元種で、いつもの粉で、いつものこね方で、いつも通りに焼いて満足のいく山食ができていた、あの頃に戻れたら。

もちろん念や意地ではパンは膨らまない。ググって原因が見つかればこんなに苦しまない。SNSにはカッコイイパンしか載ってない。読み漁った専門書をもういちど開く気力もない。

ならば。最後の手段。

「Eシェフ、お久しぶりです。ここ1ヶ月、山食だけが膨らみません。シェフは私にとって雲の上の存在だし、シェフにはたくさんの弟子のパン職人がいらっしゃるので、このような相談はご迷惑かと思ったのですが、苦しすぎて…メッセージ送ります」

メッセージの送信先は、わたしが尊敬するEシェフ。10年前、東京駅地下のパン屋で働いていたときの、統括シェフ。

シェフがパン生地を成型する姿を見れた日はラッキーで、直接指導を受けた数十分のことなど、いまだに覚えているくらい。

メッセージに「既読」になってすぐ返事がきました。キターーー。

「ルセット(レシピ)送ってください」

「工程と工房環境も」

挨拶もすっ飛ばした、短く簡潔な文章にただただ感激。

「スキムミルクは最近変えましたか」

「材料で原因になるのはスキムミルクと小麦粉だけど、変更してないなら乳タンパクは問題なさそう。ルヴァンはどうですか」

夢のような事情聴取は続きます。

「ルヴァン(元種)のpHは重要です。舌で舐めて味に慣れておくといいですよ。液種(レーズンエキス)もすべて、うちは舌で確認します」

「舐めて梅干しくらい酸っぱいと厳しいですね。pH4以下は避けた方がいい」

メッセージのやりとりに、ほとんど山食スランプを忘れそうな高揚感に包まれました。

また明日もやってみよう。

「今、自分のルヴァンなめてみました。薄い酢水のような、舌先が軽くぴりぴりするような感じです。でもどうして、ノアレザンやベーグルは調子よく膨らむのに、山食だけ膨らまないんでしょう?」

「?」

「ルヴァンは同じ?」

「うーん。ちょっと仕事戻ります。またあとで」

仕事に戻りますだって、カッコよ…。

その背中を想像して目をハートにしてる場合じゃないぞ自分。

あの山食とヨリを戻す日まで、両想いになる日まで、腐るわけにはいかない。

(シェフはお仕事にいったきりです。また後日、続編としてお知らせできるかもしれません。それにしても、シェフのルヴァンを舐めてみたい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3年目の初体験」

いわなみ家の話

第82話

「3年目の初体験」

Q. パン作りのこだわりは?

A. 膨らませることを第一に考えています。

Q. 山食のアピールポイントは?

A. 薄くて香ばしい皮(クラスト)と、しっとり艶のある内層(クラム)。

とか言ってたけど……。

パン屋開業3年目、山食だけが膨らまないスランプに陥りました。

あんなに自信満々に答えていたアタシ…穴があったら入りたい。

自家製天然酵母をはじめて20年、人様からお金をいただきパンを生業にして8年、パン屋を開業して3年。初めてのことです。

経験・知識・失敗・勘

これまでに身につけたものを総動員して原因を探りましたが何をやっても膨らみません。

粉を変える、砂糖を増やす、発酵温度を変える、成形を変える、焼き時間を変える…変化なし。膨らまない酸っぱいパン量産。

万策尽き、「また1から作り直そう」と思ったとき、

「1じゃなくて0からじゃね?」と天の声が。

3年以上かけ継ぎ、絶やさず大事に育ててきた自家製天然酵母種。その白いスライム状の物体を前に、「原因はアンタだな」と、ピンときました。

「酵母種を積極的に捨てる」というのは、3年目の初体験です。

私は週に3度、酵母種を継いでいますが、1回の粉の量は1・8キロ。パン教室を主宰していたころ(1回約200g)とは、総量が格段に多いのです。

その量を3年間キープしていたために、酵母種の菌が酸性の飽和状態になっていたのだと確信しました。

3年目にして、自家製酵母種は「秘伝のタレ」とは違うものだと学習しました。古けりゃいいってもんじゃない。

長期間かけ継いだ天然酵母種は、目には見えませんが、中に多種類の菌が共存し、それが複雑な風味や深みをパンに与えるのも確か。

どっしりとしたハード系のパンには向いています。

一方、やわ肌で軽さ重視の山食には、よりフレッシュな酵母種が向いています。

  • 長期間かけ継いだ酵母種=渋さが増す中高年
  • 作りたての酵母種=元気はつらつ20代

のイメージです。

山食は特に、成形も複雑で型にも入れるので、ほかのパンよりも2次発酵に時間を要します。長時間発酵させると酸味が出てきますが、スタミナがある20代のパワーならば、酸味が出る前に発酵を完了させることができます。

ほんとはね、こんなカッコわるいこと、書かないほうがパン屋店主としてはスマートでしょうけど、元パン教室講師だったこともあり、「パンの壁にぶつかった人のヒントになりたい」という気持ちがいつもあります。

長くてマニアックな「いわなみ家のコツ」でしたが、いつかあなたの役に立ちますように。