「ハハの味」

いわなみ家の話

第39話

「ハハの味」

 

♪ママ、ママ、ままどおるぅ~

笑顔いっぱいママの味~♪

このCMソングを知らない福島県民はモグリですね・・。

福島の銘菓「ままどおる」は、甘くてミルキーな味。

「ねー、ママー、ママのあじってなんのことー?あじしないけどー」

まじめくさって私の腕をペロッと舐める小1次女。どこまで純粋なのよ。

「ママの作る食べ物でいちばん好きなものってことよー。なに、なにー?」

 

近所の田んぼは黄金色に光り、続々と稲刈りがはじまりました。

私がこの季節、無性に食べたくなるのは、母のおはぎ。

ワタシの実家は、お彼岸とは無縁そうな、海が見える高層マンションですが、母は毎年、小豆を炊いておはぎを作ってくれました。

 

  1. 水で湿らせ、固く絞ったさらしに、あんこを乗せたら、さらしの端っこを使ってあんこを広げます
  2. あんこの真ん中に、軽く潰して丸めたご飯(もち米と白米を半々)をおいて、さらしごと、クルンと包み・・
  3. さらしをゆっくりはがせば、おはぎのできあがり

毎年のように「食べたーい」とLINEしてますが、帰省できるのはいつのことやら。

 

で、小1の答えが秀逸なので、ぜひ聞いてください!

「かえちゃんのママのあじは、ママのパン!」

万歳。拍手。満点回答。

 

それをそばで聞いていた小3姉にも同様の質問をしたところ、

「んーとね、お弁当に入ってる、ソースカツ!」

うん、うん!

それ欠かしたことないよね、お母さん。マルハニチロの、6個入りの、あれあれ!

思いっきり冷凍食品ですけど~。

ハハの味は、ソースカツ(自然解凍も可)。

子供の舌は正直です。

 

 

 

 

「1万円の美容液」

いわなみ家の話

第38話

「1万円の美容液」

 

近所のドラッグストアで、9年ぶりに美容液を買いました。ちっさいボトルで1万円。

若い頃は、銀座の百貨店一階の、香水がプンプンする化粧品コーナーに座って、メイクばっちり美容部員にオススメされるがまま、あれもこれもと化粧水から美容液まで買っていましたが・・。

(そもそも近所に化粧品を買う所がない、笑。肉から酒から化粧品まで何でも揃うドラッグストア万歳)

子が生まれて以降、美容液の存在を忘れていました。

美容液なんて無視していたと言った方が適切か。あんな少量で高いものより、お徳用パンパースの日々でした。

マスクを外し、鏡を見てハッと気付いた・・ほうれい線やばくない?!

午前1時から開始する私のパン焼きスケジュールは、家族のみんなが起き出す6時くらいには一段落するのですが、そのころの私の肌といったら、「揚げる前の唐揚げ」状態です。わりとタツタ系。

皮脂にまんべんなくまぶされた粉。手で触ってみると頬っぺたがざらざらします。

小麦粉は少しの湿度変化も察知します。夏から秋へと、空気が乾燥する今、生地の仕込みの水分量も大きく変わります。

ゆえに、小麦粉に水分を吸われた私の肌は超乾燥状態であります。

駆け込むようにドラッグストアへ。

「あの、、口の周りのシワがなくなるような化粧品ありますか?」

単刀直入に困窮ぶりを告白すると、ドラッグストアの美容部員さんから、なるほどの答えが返ってきました。

部員「コロナ禍でマスクをしたままだと、口周りが、蒸れと乾燥を繰り返しているんです。保湿されている気になりがちですが・・。」

私「うんうん、口紅もしなくていいし、息で適度に保湿されてて、良いものだと思ってましたよ?逆なんですね」

それで、お肌にハリを与えてくれるという美容液を1本追加することになりました。1本でパン何個分じゃーー!?

 

部員「何より保湿。でも、タルミやシワの根本的な解決策は、表情筋を鍛えることですよ!(^.^)」

私「そっかー、良いこと聞いた!笑う、話す、ですね。じゃ、コレ(1万円)、買わなくていいでしょうか?」

部員「それは必要かと!(^.^)」

うまいこと乗せられましたが、ベーグル35個分のケアもやってみようと思います。

 

「どうぞお引き取りください」

いわなみ家の話

第37話

「どうぞお引き取りください」

 

あれから4日経ちました。

新聞掲載の反響は予想以上に大きく、元新聞記者のわたしもびっくりでした。

元同僚のY紙ベテラン記者やカメラマンも紙面を褒めていましたよ。民友記者さん、丁寧な取材をありがとうございました。

 

事件が起きたのは、まさしく新聞掲載日。

現場は、パン屋縁側付近。

居合わせたのは、お客さん4名。

この日はお客さんが多く、早々に売り切れようとしていましたが、事件発生時に残っていたのはベーグルが1つだけ。

抹茶ベーグルを手に、レジに近づく初老の男性。

客「なんだよ、1つだけか」(ベーグル、レジにポイっと転がる。あたしの分身が。ヒィ。)

私「ええ、すみません、せっかく来ていただいたのに」

客「高ぇな」

私(うっ、今なんて?)(笑顔取り戻し)「290円です~」

客(財布からお金を出しながら)「ところで小麦はドコ産使ってんのかい?」

私「北アメリカ産の小麦を、郡山の業者で製粉したものを主に・・」

客「けっ、外国産じゃダァメだな。てことは、この店は天然酵母ってだけか?」

私(天然酵母ってだけ?エクスキューズミー?)「お気に召さないのであれば無理に買っていただかなくていいんですよ(かろうじてまだ笑顔キープ)」

客「俺はなぁ、長年、JAで小麦をナンタラカンタラ・・。国産小麦じゃないとダァメだー」

私「あらー、そうですか(笑顔、限界)。私も小麦に携わって10年以上です。その中で、国産も外国産も含め、天然酵母に合う小麦粉を選んでやっているわけです(不覚にも涙でてくる)。初めていらしたお客さんにここまで言われなきゃいけないでしょうか?」

ここで、私の目に写ったのは、この異常事態を遠巻きに見守りながら、首を縦にブンブン振っている4名のみなさん。

買うパンがもうないのに、4名のみなさんは帰らない。首を振りつづける。

私はそれを「店主がんばれ」だと察知してこう続けました。

私「今日はこれ(ベーグル)持ってお引き取りください。お代は結構です」

 

ここのパンが美味しいと言って繰り返し来てくれるお客さんと、製粉したての新鮮な小麦粉を肩に担いで毎週配達してくれる業者さんの顔が浮かびます。

確実にお客さんを1人失いましたが、それよりも、自分のパンと、たくさんのお客さんと業者さんを守りたかったです。

男性客はいつの間にかいなくなっていました。

代わりに、ベーグルが1個、まだレジに転がっていました。

「これ、食べちゃいましょうか。いわくつきですけどね・・」

小さなまな板でベーグルを4等分し、事件後にかけ寄ってきてくれた4名のみなさんにお渡ししました。

「また来るよ。おいしかったよ」

こんな時でもお客さんに助けられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「小娘による辛口コメント」

いわなみ家の話

第36話

「小娘による辛口コメント」

 

先日、出先で夫が買ってきてくれたらしく、ダイニングテーブルにパンが転がっていました。

山食やカンパーニュなど、いわなみ家にもあるパンが数種類。

たまには他の店のも食べて研究してみたら?ってことだと察して翌朝いただくことにしました。

 

カンパーニュをつついてみた次女(小1)、

「なんっ、これ?やっわらか!」

軽くトーストした山食をかじった長女(小3)、

「ママ、口の中が乾く~。砂漠?砂鉄?の味する」

砂漠も砂鉄も食べさせたことはないですが・・・、言いたいことはわかりました。

パン屋の娘は、コメントがいちいち辛口かつ生意気でスンマセン(笑)親の顔が見てみたい。

 

私が焼き上げてあら熱をとっているパンにも、毎日厳しい視線が送られます。

山食を見ては、

「今日は高さが出てないねぇー」

(それ一番気にしてること!)

ちょっと早めにオーブンから出してしまったノアレザンを見ては、

「もうちょい焼き色つけたほうがよくない?」

(それも!)

んもー、的を射てるから余計にカチンときます。

生まれ育った環境の食べ物で舌や目が育つのはいいことだけど、コメントが的確すぎて時に凹みます。

お客さまの手に渡る前に、手厳しいチェックを受けておりますので、安心してお買い求めください。

 

件のパンを買ってきた夫もどうやら試食したようで、家庭内LINEが届いていました。

「いわなみ家のパンって美味しかったんだね(笑)」

 

今月で結婚14年目。

気付くの遅すぎない?

 

 

 

「あなたには嫌われたくない」

いわなみ家の話

第35話

「あなたには嫌われたくない」

 

草ボーボーの庭の草刈りをしながら夫が泣いていました。

「どうしたの、なんかあった?」

「取材先の人を怒らせてしまった・・」

今にも消え入りそうな声。

 

 

「ママはいいよねー、誰にも怒られなくて」と、小学生の娘たちはよく言います。

大人になったら怒られることは少なくはなるけど、その分、ショックは大きい。

 

あんたのこと信頼してたのに何をしてくれるんだ・・今回の夫の件も、どうやらその類いのようです。

大人の涙は、失った信頼への、悔しさそのもの。

大人のみなさん、最近、悔しくて涙したことありましたか?

  • フォトジャーナリストと取材相手
  • パン屋店主とお客様

比べる土台は違えども、わたしにも、信頼を失いそうになった出来事があります。

スマートフォンに届いた、常連さんからのメッセージ。

「いつもおいしくいただいています。お伝えするの迷ったんですが、先日のお届けパンに髪の毛が入っていました」。

この方、開業当初からのいわなみ家ファンで、「そろそろ(パンのストックがなくなって)禁断症状です」「いつまででも食べていられるパンです」など、これまでに胸が熱くなる言葉をたくさんいただいてきました。

 

そんなお客様の信頼を一瞬で。

作業中に入った私の髪の毛1本で。

飲食業者として、あってはならないことが起きてしまった。

手にしたスマートフォンの画面が、動揺で震えました。

すぐさまメッセージに心からのお詫びを送信。「既読」なるまで、鼓動が治まりません。

「入力中・・」にすこし安堵してさらに返信を待つこと1,2分。

「どんなに気を付けても起こることがあります。わたしも菓子作りをする者として重々承知です。これからもファンとして気持ち良く買い物したい・・そんな勝手な思いで、モヤモヤしたままにせず、お知らせすることにしたんです」

今度はスマートフォンの画面がぼやけます。

取り返しのつかないことをしてしまったけど、思い付く限りのお詫びはしたいと思い、翌日にはシュトーレンを送りました。

雪が溶けた春、ご家族で縁側の店頭販売にいらしてくれたことは、映像になって私の頭の中に残っています。

 

夫よ。相手は、「あんたとこれからも付き合いたいんだよ」と思って怒ったんでしょう。

時間を置かず、菓子折り持って、謝っておいで。何度でも。