いわなみ家の話
第五話
「夫のおかげ」~with a bit of irony~
おおー、いわなみ家さんよ~
第五話にしてオノロケかよ~
ちょいと待ってよ、そこの読者さん。
ま、そう言わず読んでみて♡
「目の前の人のお腹を満たすものを、手渡しするようなことしたい」と漠然とした思いを持ちながら20代を過ごしました。
新聞社時代は、宿直勤務(午後3時~翌日昼頃まで)の出社前にパンが焼き上がるようにして、出社しては同僚に押し付けていました。でも、
「江口くん、すぐ出てきて」
と午前中にデスクから電話が鳴ったら最悪です。
「いま、二次発酵中なんです」
とは言えないのでね。
泣く泣く生地を冷蔵庫に突っ込んで、化粧もそこそこに現場へ急行です。
そして20代を1ヶ月だけ残して結婚。
恋愛の経験がある方ならみんなそうだと思いますが、目の前の人のお腹を満たして「おいしい」って言ってもらいたい。
「焼けたよ~」
「うん」
「ど?」
「うん」
「おいしい?」
「ん」
もはや誘導尋問。
私の結婚相手は顔に「寡黙」と書いてあるほどの寡黙な人だったのです。
omg
不言実行の彼に惹かれて結婚しましたが、有言、公言、なんなら紙に書き出して壁に張って実行の私とは、正反対。
このままリアクションのないパン焼きをしていられない。
夫のおかげで、目が覚めました。
まずいぞ、だれか、食べてくれる人を見つけなくちゃ。
いたいた、ここに、と胸元で眠るのは生後間もない長女。
離乳食もまだなのに、そんな何年も待てないよ~。
仕事をやめて一時的に専業主婦となり、家の中で悶々とする日々がはじまっていましたが、
「ヨーコが一歳になったらパン教室やる」
と手帳に書き殴りました