いわなみ家の話
第六話
「食物アレルギー」
【午前9時】授乳◯、うんち◯ (普通)
【午後1時】授乳◯、うんち△(かため)
【午後5時】授乳◯、おふろ(よーちゃん、ごきげん)
初めての育児。
簡単な育児日記と同時に、私が欠かさずつけていたのは、
「パンのデータBOOK」
【こねあげ】 23℃
【1次発酵】 25℃ 1時間のちパンチ、室温20℃3時間のち、冷蔵庫8時間
【2次発酵】 25℃40分
【焼成】予熱250℃、230℃に下げて20分
など。
生後4ヶ月目くらいの育児日記には
【ようちゃん、身体じゅう、痒そう。血が出るまでかきむしってしまう。なぜ?】
そのころ長女は、頭皮、耳の裏、ほっぺたや腕まで、身体じゅうを痒がりはじめました。見ていてかわいそうなくらいに。
皮膚科で保湿クリームをもらいますが、改善はみられず、医師の勧めで、生後半年の健康診断でアレルギー検査をすることになりました。
「お母さん、原因は小麦ですねー」
「えっ?!」
子供が小麦アレルギー?
No wheat, no bread.
私のパン作りには、小麦なくしてパンはあり得ない。
それこそ、私のパンの未来予想図がガタガタと音を立てて崩れ落ちました。
その後、お医者さんの説明も、上の空。
「原因は所説ありますけどもね、そのひとつで、蕎麦屋の息子が蕎麦アレルギーってのはよくある話でね、必要以上のアレルギー物質を食べたり、体に付着したりすると、赤ちゃんの体はアレルギー反応を起こしてしまうことがありますね・・」
ん?思い当たる節がありすぎる。
抱っこひもでだっこやおんぶをしながら、小麦粉を計量し、パンの試作をしては、日々データBOOKをつけていました。
多分、この賃貸の我が家には、普通の家庭より多くの小麦粉が空気中に漂っていて、それを浴びるような暮らしをしていたんだ・・。母親の私の、熱中が過ぎたばっかりに、こんなに小さな我が子に辛い思いをさせてしまった・・。私の母乳も小麦の含有量が多かったのかもしれない・・。なんて母親だ。
爪でかきむしるあまり、両手に小さなミトンを着けさせられたヨーコに謝るしかありませんでした。
さて、これから私はどうしたらいいのか。当時住んでいた、大阪・豊中市の病院から途方にくれてベビーカーを押して帰宅しました。
それからはパン作りを封印し、家と地域の子供支援センターを往復する毎日を自らに課しました。
懺悔のような気持ちで。