いわなみ家の話
第64話
「お教室はグレーゾーン」
スマートフォンに表示された「9年前の今日」というお知らせとともに現れた1枚の写真。
2013年2月、撮影地、東京都江東区。
1日のほとんどを生後4ヶ月の長女と2人きりで過ごす、「これからどうやって生きていこう?」の時期でした。
退職金はパンの学校につぎ込んだ、パン屋でも修行させてもらった、震災が起きた、夫の心はフクシマ、彼は会社を辞めたがっている、子供がうまれた、34歳私は無職。
「この子が1歳になったらパン教室をしよう」。
カンパーニュ1玉とベーグル4個を横一列に並べて、ホームページのトップページに使えるようにと撮影したようです。目の前の幼子を「ものさし」にして、漠然と目標を立てたときの1枚です。
あれから9年とは!
先日、町の商工会議所で、ある告白をしました。「先輩創業者の話」として壇上に立ち、「6年間続けていたパン教室の稼ぎは申告していませんでした」と。
子育て中の女性や主婦が、自分の特技を生かして人を自宅に招き、対価をもらって運営する「自宅レッスン、お教室」のほとんどは、グレーゾーンで行われています。
レッスン料は言い値。領収書も出しません。託児所に子供を預けたら、いただいたレッスン料はほとんど手元に残りません。
それでも毎月欠かさず予約してくれる生徒さんの期待に応えたくて、求められることがやりがいになって、続けていました。
パン教室4年目の時、「やっぱりマズいかな…」と、思い立って税務署を訪ねました。
「あの、実は申告もせずパン教室やってるんですけど…」
優しい税務署員の言葉はこうです。
「この程度の収入なら、こちらも突っつきません。ほんとは申告してもらうのが筋ですがね…」
この程度(!)って鼻で笑われましたが、見逃してもらえました。収入から支出を差し引いたら、申告するものがない程度でしたから。
グレーゾーンでがんばってるみなさん、その調子です。生徒さんからのリクエストに応えているうちに、センセー側のあなたがぐんぐん力をつけて、育っていきます。そのうち、規模が大きくなって手元に稼ぎが残るようになったら、開業して申告し、納税しましょう。
おかげさまで令和3年度の確定申告を済ませました(商工会議所の人におんぶにダッコ状態)。
現在はグレーではなくブルー申告です。