「救世主ミナ」

いわなみ家の話

第135話

「救世主ミナ」

今年も、3年連続でミナちゃんからシュトーレンのご注文をもらい、九州へお届けしました。

ミナちゃんは、30年以上前の、私の救世主。

中2の1学期、朝、学校に着くと、下駄箱に自分の上靴がないのに気が付きました。

職員室へ行くと、ミナちゃんと担任がいて、ミナちゃんは「エグチの上靴が!」と憤慨していました。

エグチのソレは、蛍光ピンクのポスターカラーに塗りたくられ、中敷きには無数の画びょうが敷き詰められていました。

「エグチが見てしまう前に」と、私より早めに登校したミナちゃんは上靴を持って職員室へ駈け込んだとのことでした。

上靴を自宅に持ち帰り、夕飯の支度をしている母の背中に事情を話したことはなんとなく覚えています。

「もうじき引っ越すからね」。

エグチ一家は、新しいマンションを買って中2の夏には引っ越しを予定していました。逃げたいと思ったころにタイミングよく、陰湿ないじめから立ち去れたのです。救世主ミナと、逃げ場があったおかげで、私は新しい中学校でやり直しができました。

もうお互い母になって、住む場所も離れ、あの時の話をすることはないにしても、彼女に救われたことをいつまでも忘れません。

早いもので私の長女も来春から中学です。

今は、小学校の卒業文集委員の一人になり、【独断】を敢行しているそうです。

文集のページには、自己紹介から将来の夢までさまざまなページがあり、「なんでもランキング」というものもあるそうです。クラスのみんなにアンケートを取って、「モテる女子ランキング」「おもしろい男子ランキング」などを1~3位まで書き出すんだとか。

「…いいけどさ、大丈夫なの?それ…。口出ししたくはないけど、お母さんあんまり好きじゃないねぇー、それ」

とは言っておきました。

数日後、アンケートの集計でもしたのか、「ランキングに入らない子が出てきちゃった」と悩んでいる様子。

いつぞやの母の小言を思い出したかぃ?

さらに数日後、霧が晴れたような顔をして帰ってきました。

「よーちゃんの独断で、新しいランキング項目作った。あの子が1位になりそうな項目をね」

独断上等。文集委員の権力の行使(乱用?)!

でかした。

あの子は、人一倍繊細で、相手の気持ちを測りすぎるほど察して、先のことが不安になってしまうんだよね。そして今は学校に行かない選択をしているよね。「だれにでも優しい人ランキング」、たしかにあの子が1位だね。

今学校に行(かない、けない)子へーーー。

逃げ場はあるかい?安心できるスペースはあるかい?救世主ミナや文集委員ヨーコみたいな人は、必ず近くにいるよ。