「梅雨の手持ち無沙汰」

いわなみ家の話

第110話

「梅雨の手持ち無沙汰」

梅雨入りして湿度も気温もぐんぐん上昇すると、お客さんがパッタリと減る。お弁当屋さんをしている親友Tちゃんも同じことを言っていた。

毎年のこととはいえ、気持ちが沈んでしまう。

「お客さんたち、私のパンに飽きてしまったの…。もしかしてネット上で変な評判が立っているのかも…」。

売れ残ったパンを前にして、徹夜の疲労が2倍増しに。そんな日の昼ご飯にコンビニの冷やし中華を選んだ。「こっちも弁当苦戦中」とLINEを送ってきたTちゃんは、休憩中にフローズンヨーグルトを食べていた。

あ、そういうことね~。やっぱり梅雨のせいらしい。

翌週はパンの生産量をいつもの6割(90個)に減らしてみた。

いつもは深夜1時から翌朝7時までノンストップでパンを焼いてるが、生産量減で手持ち無沙汰になり、2度もコーヒー休憩をして、Tverで見るドラマもなくなってしまった。

思いがけず時間にゆとりができた、梅雨の晴れ間の週末。

パン屋が昼寝をしている間、父子は、NITORI&KOMERIに出かけていた(オシャレなカフェではありません、笑)。ニトリでは回転式の学習椅子を購入。また、コメリで調達した木の板で、DIYの学習机が二日で完成していた。

この古民家に移住して以来、ずっと物置部屋になっていた一室が、ものの2日で子供部屋に。急激な変化は他にも続いた。

すっかりプライベートスペースが気に入った姉妹は、ふすまを締め切って、さっそく宿題に取り掛かった。「入るときノックしてねー」とな。突然訪れた静かな時間。

「え、待って。これが親離れ?」

あれだけ一人の時間にあこがれていたくせに、居間に姉妹ケンカの声がしないと妙な気持ちになった。パン作りも忙しくない、「ママー、見てってばー」のしつこい見て見てアピールもない。あっちもこっちも手持ち無沙汰。

(お母さん、もしや、寂しいんですか)と、ふと聞こえる天の声。(いやいやいや、んなわけないでしょ)と、反論し、いつもより丁寧に洗濯物を畳んだ。

「ママー、見て~」。

ハイなんでしょう?と新鮮な気持ちで振り返ると、ちっちゃなジップロックに油性ペンで「グラノーラ」と書かれた粘土のカス?をもらった。「えへへー、これ作ってたの」と小3次女。

アーモンドスライスも、カシューナッツも入った、いわなみ家のグラノーラ。勉強してたんちゃうんかい