いわなみ家の話
第88話
「ハートウォーミングきもだめし」
いわなみ家がある会津美里町八木沢地区には、意外にも子供がたくさん。
空き家になっていた古民家がこの地にあったとはいえ、子供を含めたご近所さんはどんな面々か、移住者にとっては宝くじのようなもの。サマージャンボ宝くじ、1等レベルでした。
「コンニャク、すっかー?」
「今の時代は、あれだべ、ハラスメントになっかもしれん(笑)」
「国見神社スタート、福泉寺ゴールでいい?」
「俺らんときも、そうだったなぁ」
夏休み入る前から、八木沢子供会を運営する大人たちが公民館に集まって例のイベントを計画していました。
八木沢に代々伝わる「きもだめし」。
最高気温が37度を記録した猛暑日の夕方、あたりが薄暗くなるのを待って決行されました。
スクールバスでいつも同じ停留所から乗る小学生17名、その妹弟6名。
上級生をリーダーに、4班に分かれ、時間を空けてゴールを目指します。
その間、大人たちは子供会グループライン上で、
「おどかし係、配置につきました!」「1班出発しました」「2班流します」と秘密裏に連絡を取り合います。
どこからともなく「助けてぇ、ぼくはここだよ~」と聞こえてくる謎の声、不意にかかる水しぶき、背後から襲う白い物体、道路わきに並ぶヒトの頭部…。スマホ内蔵の音声も、水鉄砲も、ごみ袋をかぶったパパも、美容室のマネキンも、大成功でした。
本気で泣きわめく女の子がいれば、「〇〇君のパパだ!」と見抜く子もいて…。
コンニャクをTシャツの中に突っ込む、という昔ながらの方法は来年かな?
ハートウォーミングな出来事はここからいくつも起きました。
ゴール地点の福泉寺はお寺の配慮でライトアップされ、境内には明るい曲調のBGMが流れていました。
怖がった子供たちをリラックスさせるために。
本堂に一礼したあとは、お寺からのお菓子のプレゼントも。
もと来た道を帰るとき、真っ暗になった農道を、だれかのパパの車がゆっくり最後尾について、ロービームで照らします。
小さな子供たちの足が長い影になって、なだらかな下り坂に映りました。
遠くには花火大会の大輪の花。ああ、夏休み。
ここ八木沢周辺は、昔から、田んぼの区画整理や治水がうまく進んだため、今でも、親・子・孫世代で暮らす人たちが減少しないでいるそうです。青々と広がる巨大なサイズの田んぼを見るにつけ、納得させられます。
この日の子供会イベントも、八木沢自治会からの補助金で行われました。
小さい子供がいる家も、隣のじーちゃんばーちゃんのように子供がいない家も、地区全体で子供を育てるってこういうことなんだなぁ。ここで子育てができていることは、かなりラッキーなことかもしれない。