いわなみ家の話
第73話
「おい、フジイ!」
朝4時。約束どおり彼女はやって来ました。
小型カメラ(ムービー)と三脚を担いで「(静かに)おはよーございますー」。チャイム押さずに玄関から勝手に入って正解。子供たちは奥の部屋で寝ているからね。
こちらといえば、ベーグルを成形する手を休めることなく、「適当に座ってね、今コーヒーいれるからねー」と声をかけたっきり。
生地のほとんどは発酵のピークを迎え、オーブンは絶え間なくピーピー鳴ってパンが焼き上がります。
そう、一番忙しい時間に彼女を呼んだので、コーヒーいれる暇はありません。
「やば、今日の取材たのしいっす!」
次々に焼けるパンをカメラで追いかけたり待ち構えたり、オーブンの中をのぞいたり。
かと思えば、「いわなみさん、外、朝焼けすごいです。タイムラプス(コマ送り撮り)したらいいかも」と言って飛び出して行ったり。
彼女の名前はフジイちゃん。地元テレビ局のディレクターです。
実は、テレビの取材はこれまでいくつかお断りをしてきました。理由はいくつかあって
・反響が大きすぎる
・仕事の時間以外に「パンを(取材用に)用意してください」などと要求される
・取材時間が長い
など。
取材のためにパン屋をしている訳ではないし、そもそも多くのお客さんに来ていただいて「マニアッテマス」状態(笑)なので。
でも今回取材を受けたのは、ひとえに、フジイちゃんの姿勢と性格。
てろんてろんのパジャマ姿で、目を擦りながら起きてきた娘たち。
「あ、この前の…」
朝起きて知らない人が居たわけではありません。フジイちゃんは、この日以外にも、いわなみ家に何度か通ってくれていました。
「ねー、フジイちゃんも目玉焼き食べるー?」
すぐに子供たちともうちとけて(本人いわく精神年齢低めだから?笑)、朝食まで一緒に食べることに。
フジイちゃんが子供たちにヒソヒソ話をしていました。
「このあと、男のカメラマン来たらさ、『おい、フジイ!』『は、はいっ!』って感じになるけど、笑わないでよ~」
娘1「おい、フジイ!」
フ「は、はいっ!」
娘2「おい、フジイ!」
フ「は、はいっ、今すぐ!」
さてさてパン屋開店前に、カメラマン、音声さん、レポーターさんが到着しました。
「今、聞いた?おい、フジイってぇ~」
娘たちも、フジイちゃんの仕事ぶりをウォッチしていました。
でもなんだか、その「おい、フジイ」には愛が込もっていたような。
人たらし、フジイちゃんが取材した「いわなみ家」は4月19日(火)夕方、福島県内で放送予定です。