いわなみ家の話
第53話
「マスクを外して」
あれは10月の終わりの営業日。
お客様駐車場に停まった車から降りてくるご家族3人。ママと小学生の男の子、遅れて運転席からパパ。
「すみませーん!今日は売り切れてしまいましてー!」
ママに向かって縁側から何回か叫んでも聞こえていない様子。
「終わっちゃったって」
妻の耳元で優しく伝える旦那さん。
せっかくだからとご家族と話をしました。車で2時間の須賀川市から来ていただいたのにね。
「インスタグラムみています!わたし、パン教室したいんです」
話は盛り上がって、工房案内していたとき
「ココ、補聴器つけてるんですけど、こっちの耳いつ聞こえなくなるかわからないから、パン教室、今やろうと思って!」
ニコニコして、明るくて、ハキハキ自分のことを話す彼女は、初対面でも接しやすかったです。
「うん、今がいいですね!なんでも聞いてください」。嬉しくてつい私もしゃべりすぎるくらい。
でも、ちょっと聞き取りにくいのか、タイミングよく会話が進んだわけではありませんでした。
ご家族が帰ってから、友人のけいこちゃんに一部始終を話すと
「コロナでマスクしてると厳しいよね、口元見えないから」。
そうだった…。なんで機転が利かんのや、店主は!
閉店後、何気なく見ていたYouTubeに「デフサポちゃんねる」という、耳の不自由なユカコさんが作る動画サイトがありました。
ユカコさんの場合、
- カフェで飲み物を注文するときは、店員が「サイズは?お持ち帰りですか?」と言うのが聞こえない(マスクで口が見えない)ので、自分が一方的にしゃべり倒す。
- インターフォンも同じ。見えないので、一方的に要件を話す。
- では、聞こえないのになぜ補聴器をつけるのか?サイレンなどの大きな音は漠然と耳に入ってくるので危険回避として補聴器をつけている。
大きな声出してマスク越しでしゃべるより、マスクをちょっと下げて、小声で口が見えるように話すのが、あのお客さんには快適だったんじゃないかな。
昨日、そのお客さんが再訪してくれました。もちろん、用意はできてました。
彼女に接客するときだけ、マスクを外してお会計。今度はパンを買ってもらえました。
春が来て雪がとけたらまた来てくださいね。夢を叶える手伝いします。