「パンとパスタと紳士」

いわなみ家の話

第51話

「パンとパスタと紳士」

先日も、開店前から16名ものお客さんが「お名前シート」に記名して待っていてくださいました。

10時25分頃には、駐車場からぞろぞろとお客さんが歩いて縁側前に集合。

「いらっしゃいませー!そろそろはじめますね」

縁側パン屋の良いところは、開店前のお客さんの顔と数を一斉に見ることができる点です。

「路駐してる方はいらっしゃいませんかー?」

と声をかけながら、

(パンの数)÷(お客さんの数)をして、個数制限しなくてもよいかどうか、ちゃぶ台の下でこっそり電卓を叩いています。

130÷16=7.5か。

ま、制限しなくてダイジョブでしょ!

パン1個買うのも10個買うのも、お客さんの気分なので、なるべく個数制限などはしたくない店主です。

10時30分開店。はじめての方も常連の方も、順調にお買い物いただき、10時55分。

はたと気がつくと、15番と16番の男性2人が立ち尽くしていました。

縁側にパンは無し…。

まずった。

でも紳士2人の似通った雰囲気に、わたしの気持ちに余裕ができたのか、とっさに質問してみました。

「どんなパンを買おうと思って今日はいらしてくれたんですか?」

 

「あのー、クルミとかチーズの、かたいやつ」

「僕はね、カンパーニュないかなと思って」

うんうん、オッケー!ありますよ。

隠し玉作戦実行。

喜ばせたい一心でそそくさと古民家に戻るわたし。

両親に送ろうと思って別にしておいたパンの中から、希望のパンをひとつずつ抜き取って、お渡ししました。

「えー?いいの?よかったー、今日はパスタの予定だったから」

紳士がパスタを作り、その横にカンパーニュを添える場面を妄想して幸せに浸る店主でした。