「イブのパン屋とケーキ屋は」

いわなみ家の話

第46話

「イブのパン屋とケーキ屋は」

 

「あのー、うちの妻はいつになったら帰してもらえるんでしょうか(想像上のセリフ)」

イブの夜、キレ気味で職場に電話をかけてきたのは、夫。

それもそのはず、朝5時半の地下鉄に乗って家を出た妻が21時を過ぎても帰って来ないのですから・・。

私がパン屋で働いていた10年前の話ですが、昨日の新聞に目を疑いたくなるような記事が載っていました。

人気洋菓子店の違法残業労働。

記事によると、従業員の話として、出退勤時刻を管理するLINEのグループチャットには、クリスマス前の勤務が「午前4時から21時」という日もあったそう。何も変わってない。

クリスマスイブのケーキ屋さんの忙しさは狂気の沙汰だと聞いたことがあります。

ケーキ屋さんとまではいかなくても、朝から晩までバゲットが飛ぶように売れるパン屋も超忙しく、スタッフみんなで夜まで残業していました。

 

あるスタッフは、早朝わたしが出勤すると、通路に積み上げられた25キロの小麦粉袋を枕にして寝ていました。

また、あるスタッフは、突然無断欠勤をし、それ以降は携帯も繋がらず、行方が分からなくなりました。

夢を抱いて入社した若い社員が、心と体を病んでいったのを間近で見てきました。

独身の人や、脱サラ一家の大黒柱父さん的な人は、時間外労働の標的だったように思います。私は当時、結婚していましたし、女だし、パートだったので、大目に見てもらえました。「お先に・・。ごめんなさい!」と言って後ろ髪引かれながら帰宅していました。

でも、長時間労働が行き詰まって工房の雰囲気が悪くなったとき、「パン製造組、今日は7時には帰るぞー!」とか、K-POPアイドルの曲やラップを大音量で流す先輩たちがいて、パンをチームで作る楽しさを忘れなかったのは救いでした。

 

雇用主のみなさん、今年のクリスマスは、ケーキ及びパン職人とその見習いさんたちに、すこしのクリスマスを!

そして、職場環境に音楽を。

・・と綴りながら、休日返上でシュトーレンを仕込む、ひとりパン屋です。

BGMはBACK NUMBERで「クリスマスソング」(笑)ほんとだよ。