いわなみ家の話
第42話
「イケないパン」
白状します。
塩を入れ忘れたパンを大量に焼いてしまったことに気づいたとき、ある邪な感情が起きたことを・・。
山食の生地は、もちろん文字通り山食パンにもなりますが、
「やっこいあんバタサンド(1つ270円)」や「アーモンドトースト(1枚250円)」にも変化します。
あんこと有塩バターたっぷり挟んでるからイケるんじゃないか・・?アーモンドバター塗ってるからイケるよね・・?
この場合、イケるというのは、「なんとかクリアできる、なんとか通過できる」という意味の関西弁です。
売上金に目がくらんだ?情けない。
「送ってくれたら塩ふりかけて喜んで食べるよ!」
「高血圧予防パンとして売れば?」
わたしを案じて救済策を提案してくれた友人たち、ありがとう。
パンは「粉、塩、水」が三位一体となって成立するもの。言い換えれば、そのどれかひとつが欠けるとパンにはならない(と、私は思う)のです。
塩は、粉に対して1.8%程度しか入っていませんが、塩が入ることで初めて、粉の風味が立ち、天然酵母の複雑な旨味が再現されます。
昆布と鰹節でとった出汁に、ひとつまみの塩を入れるだけで、ごちそうスープになりますよね。塩がなければ、日高や枕崎が泣きます。
迫る開店時間。
きれいに整列したアーモンドトースト20枚から、1枚を手に取り、目をとじてかじる。
イケるわけない。1円もつけられない。
かくして、定刻10時30分には、邪な感情を吹き飛ばしてお客様の前に立つことができました。
売らなかったパンたち、どうしたかって?
無塩パンでもわたしの分身。どうしても燃えるごみには出せませんでした。
コンポストに放り込みました。
次の春にはウチの庭、小麦畑になってたり、山食の花が咲いてたりするかも!