「歯と塩」

いわなみ家の話

第41話

「歯と塩」

 

パン生地を仕込むとき、一番目に留まる場所に「歯と塩」と大きく書いたメモ書きを貼っています。

歯は、担当の歯科医から「いわなみさーん、パンやってるときも歯くいしばってるんでしょうねぇ。歯が削れてきていますよ」と注意を受けたので、意識して歯と歯を離すようにしています。

歯はさておき・・。

塩は、「生地への塩入れ忘れ注意」です。

なのに、なのに、やっちゃいました。

 

山食9斤分、小麦粉にして2800グラム、山食生地を3種類のパンに変えると、売り上げは9900円分。パーです。

開店前、子供たちといつものように山食の端っこを朝ごはんに、ひと口かじった瞬間。

「あーーっ、しまったー、やってしまったーー」

両手で顔を覆い天を仰ぐ母に続いて、パンをかじった娘たちもすぐに気がつきました。

「なんか・・味、しないね」

 

自家製天然酵母の力で十分に生地を膨らませるため、いわなみ家では塩を「後入れ」しています。

これ、ちょっとしたパン用語で、発酵を遅らせる要因となる塩を後から入れることで、スムースに発酵を促します。

「後で塩入れよう」

の合間に、洗濯物を干し、小3の漢字ドリルに目を通し、小1の音読を聞き・・。

いやいや、そんなの言い訳で、全ては私の慢心が招いたミスです。

ただ1つの救いが、販売前だったということ。

無味のパンを販売していたら・・と思うと背筋が凍ります。信用を失うところでした。

その日の販売では「パンとして食べないで、パン粉にしてください!」と念を押してご希望のお客さんに差し上げました。

せいぜい、ハンバーグのつなぎです~。

 

ちなみに、お昼はカップ麺でした。

下の子に、なに食べたい?と聞くと

「しょうゆのカップラーメン。だってかえちゃん、朝、塩たべてないもん」

くーっ。さすが味の分かるオンナ。

痛いとこついてくるー!

お母さんまだ立ち直れてないんだよぉ