いわなみ家の話
第139話
「農道15分」
・家から学校までの距離(1.8キロ)
Googleマップで調べ、新入生の提出書類に書き込む。
あの田んぼを右折して、小さな橋を越えたら次の田んぼを左折…通学路を赤線で記入っと。
長女は中学校までチャリ通だ。
新学期1日目の朝は、ヘルメットを目深にかぶり、ヨロヨロとしかし前だけを向いてペダルをこぐ彼女を、夫婦そろって田んぼの朝靄に見えなくなるまで手を振って見送った。
片道たった15分だけれど、こんなに不安でソワソワするとは思いもよらなかった。
夫はというと、少し時間を置いて車でどこかへ出かけた。
「よーちゃんは道端に転がっていなかったので無事に着いたでしょう」とLINEがきた。
パトロールに行ってたんかい(笑)
夕方、今度は実家の母とLINEトーク。
「わたしが中高生のとき、子供の通学にこんなに不安になったもん?」
「そりゃーそうよ。帰宅時間になると過剰に心がザワザワしたわよ」と母。そうだったんだ。この年齢になって「親の心子知らず」を知る〜。
そう、朝送り出すより、帰宅時間のほうがもっと気を揉むのだ。
下校時間の17時に、にわか雨が降ってきた。車で迎えに行くか?どこかで雨宿りしてるかな?
指定の通学路をたどって車を走らせるも、チャリンコヨーコの姿は見当たらない。雨宿りなら町役場にいるかなと、館内を小走りで見回ったが、居ない。冷たい雨は止みそうもなく、辺りは暗くなってきた。
17時25分、在宅の夫によるとまだ家には帰っていないらしい。
「学校に電話してみるよ」
ハザードランプをつけて車内から電話をかけてみる。すぐつながった。名前を名乗り、事情を説明すると、電話の向こうのセンセーは
「あ~ハッハッハ、アハハ、はいはい、アハハ、おかーさん、よくあるんですよこういうお問い合わせ。ご入学前に、アハハ、家から学校まで、アハハ、どのくらいかかるか、アハハ、確認しましたかぁ〜、アハハ」
文章上、アハハを2割ほど盛っているが、ほんとうに、結構な時間をかけて笑われた。嘲笑された。
「あの…!聞き捨てなりません。なぜ笑うんですか…なぜ、なぜですか」
モンペ(モンスターピヤレンツ)のブラックリストに載ったか知らないが、悔しくて、電話越しに涙が止まらなかった。
新米保護者のココロ、センセー知らず。
ただ、少々パニクっていたことは認めよう。この電話の最中に、チャリンコ娘は無事帰宅しておりましたから。